電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

脳科学やメンタルヘルスの最前線を、研究者・当事者目線からお伝え。生きづらさを解消するためのプロダクトの紹介も。

眼からアルツハイマー病のリスクを知る方法が新たに開発された

アルツハイマーは、脳に損傷が生じて様々な機能異常が起きる病気です。特に、会話が通じなくなったり記憶が障害したりするため、本人はもとより、ご家族が大変な苦労をされてしまう病気です。

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このように一度進行する大変困ったことになるため、脳科学メンタルヘルス等様々な分野で研究が進んでいます。今回はこのアルツハイマー病の進行を、眼から予測できる新しい技術の研究について紹介します。

 

 アルツハイマー病の原因はタンパク質に注目されてきた

従来のアルツハイマー病研究では、脳内に蓄積する二種類のタンパク質(アミロイドβ、タウ)に着目されてきました。特に、睡眠不足とアミロイドβの蓄積には密接な関係があることが知られており、アミロイドβアルツハイマー病発症リスクの指標として扱われてきました。

julife.hateblo.jp

他にも、脳に送られる血液に含まれる物質を振り分ける血液脳関門の損傷が認知障害に関わっているなど、脳科学においてアルツハイマー病に関わる指標はいくつか検討されてきました。一方で、これらの指標はいずれも脳内・血液内の検査が必要で、日頃の診断に用いるには少々ハードルが高いという問題もありました。

脳深部「青斑核」と瞳孔の対応に着目した新たな研究

新しい研究は、2種のタンパク質のうちタウタンパク質に着目しました。タウタンパク質が溜まってしまう(=アルツハイマー病リスクが高まる)とき、まず最初に脳の深いところにある青斑核(Locus Coeruleus: LC)というところに沈着します。これは、アルツハイマー病の非常に初期段階から起きる現象です。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E6%96%91%E6%A0%B8

さて、青斑核にタウタンパク質が貯まると、青斑核の機能が少し変化します。青斑核の機能は、覚醒の調節や認知機能の調節、そして瞳孔反応の促進です。このうち瞳孔反応に着目すれば、アルツハイマー病の初期症状を判別しやすいのではないかと、研究者らは考えました。

いつでも眼がアルツハイマー病と対応するわけではないが……

カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部にある老化行動遺伝学センターで行われたこの研究では、認知課題中の瞳孔反応を調べました。かねてより、アルツハイマー病の予兆(軽度認知障害)をもつ人は、認知課題中の瞳孔反応が大きいことがわかっていましたが、新しい研究ではこれをさらに、遺伝子分析を含めて解析しました。

すると、アルツハイマー病リスク(タウタンパク質、遺伝子分析、軽度認知障害)をもつ患者では、たしかに瞳孔反応が普通の人より大きくなることが改めてわかりました。

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この瞳孔の開き方は、あくまで研究における認知課題(相当考えないと解けないようなテスト)を行った際に起きるもので、日常われわれが人の目を覗き込んで、アルツハイマー病の調光を予測できるとは限りません。

しかしながら、予測に非常に高いハードルがあったアルツハイマー病に対し、また新たなスクリーニング方法が登場したことは非常に重要な成果です。早期発見によりメンタルケアが促進したり、症状を軽いまま抑えることができる方法が、将来的に開発されるかもしれません。

引用

How the Eyes Might Be Windows to the Risk of Alzheimer’s Disease

William S. Kremen, et al. (2019). Pupillary dilation responses as a midlife indicator of risk for Alzheimer’s Disease: Association with Alzheimer’s disease polygenic risk. Neurobiology of Aging.