電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

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不安症状は腸内細菌の調節で軽減できるとした研究結果

不安症状は、さまざまな精神疾患や身体障害に伴って現れ、特にストレスに関連する障害を持つ人に顕著です。3分の1もの人は、障害に何らかの不安症状の影響を受けるといわれています。

今回は、この不安症状が抗不安剤のみならず、腸内細菌の調節によって和らげることができるかもしれない、という研究結果を紹介します。

腸内細菌と脳神経系が深く関わるという「脳-腸相関」は、メンタルヘルス脳科学の分野のホットトピックです。今回の研究はまさに、脳と腸の相関をまた一つ明らかにしたものといえます。

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レビュー研究:「腸内細菌調節が不安を軽減する」

研究調査には、以前のたくさんの研究をまとめて比較し、実際にどんな研究の手法が効果的だったのか? を調べる手法があります。これを、レビュー研究といいます。今回紹介するのは、21の研究、合計1503名を対象としたレビュー研究です。 

レビューされた研究ではいずれも、腸内細菌の環境を調節することで不安症状を軽減しようと試みています。21の研究のうち、11の研究では、腸内細菌の調節が明らかに不安症状に対してプラスにはたらいていました。いずれの研究も、質の高い研究であったことを著者らは報告しています。

プロバイオティクス:腸内細菌を調整する"善玉菌"

今回の研究では、プロバイオティクスと呼ばれる生物を使ったものです。プロバイオティクスは、日本語では善玉菌としてよく知られています。研究では、プロバイオティクスのみを含むサプリメントや、プロバイオティクスを含む製品を使用して、不安症状がどのように変化するかを調べています。

プロバイオティクスが投与されると、腸内微生物叢(腸内細菌を含む、腸内の微生物環境)が変化します。研究の一部では、プロバイオティクスを使わずに、腸内環境を整える手法(IRIF)も用いられました。

手法同士を比較すると、たしかにプロバイオティクスを用いた介入の45%が有効だったが、プロバイオティクスを用いない介入では80%が有効という結果になりました。いずれにせよ、腸内細菌の環境を整えることで、不安症状が軽減されたのは確かでした。

善玉菌と不安症状の因果関係はまだよくわかっていない

今回の研究はいずれも、因果関係を特定することが可能なタイプの研究ではありません。また、21もの研究を比較した上でも、研究デザインや実験参加者の偏りの問題など、一般化するためにはまだまだハードルが高いことを、著者らも指摘しています。

こうした研究は間違いなく、メンタルヘルスの未来に貢献しています。しかしながら、われわれが安易に「善玉菌を摂取すれば不安が治る」と言えるようになるには、まだまだ時間がかかりそうです。

引用

Anxiety might be alleviated by regulating gut bacteria | BMJ

Beibei Yang, Jinbao Wei, Peijun Ju, Jinghong Chen. (2019). Effects of regulating intestinal microbiota on anxiety symptoms: A systematic review. General Psychiatry.