電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

脳科学やメンタルヘルスの最前線を、研究者・当事者目線からお伝え。生きづらさを解消するためのプロダクトの紹介も。

睡眠薬は、「死にたい気持ち」も眠らせてくれる?:ランダム化比較試験から

 

今回紹介するのは、不眠の薬(睡眠薬)が致死念慮を和らげてくれる、というものです。

表現には最大限配慮しますが、現在不安が強い方や気分が落ち込んでいる方は、落ち着いたときに見るようにしてくださいね

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疾患が引き起こす「死にたい気持ち」:”致死念慮”

眠れない夜には、不安にかられます。普段なんとも思わないこともネガティブに感じられ、布団にくるまったまま消えてしまうのではないか、と思うこともあるでしょう。

こうした不安や抑うつが非常に強まってしまったとき、時に人は「死んでしまいたい」と思うことがあります。この致死念慮と不眠は非常に関係が深く、同時に起きたり、関連して発症したりすることがあります。

※そう考えてしまうな、という人は、ぜひ専門家にご相談ください。今回紹介する研究のように、(たとえ直接、すぐに治せないまでも)生活が良い方向に向かうような手立てを、一緒に考えられるはずです。

睡眠薬が「死にたい気持ち」を和らげる

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研究者たちは、不眠症と「死にたい気持ち」や自殺の関係に着目しました。不眠症に対する治療は、睡眠導入剤の投与です。今回紹介する研究では、非常に有名な睡眠導入剤であるゾルピデムの投与が、(プラセボよりも優れた)「死にたい気持ち」の低下をもたらすか検討しています。

研究では、合計103名の参加者のうち、51名がゾルピデム投与、52名がプラセボ群としてランダムに振り分けられました。このように、研究者にもわからないようにランダムに「薬を飲む」「飲まない」人を割り当てる研究は、薬の本当の効果を確かめる有効な手段となっています。このような研究を、ランダム化比較試験(RCT)とよびます。

ゾルピデムを投与された人たちは、すぐに不眠症が改善しました。また、「死にたい気持ち」も、すぐには改善しなかったものの、間接的に治療効果が示されました。これは、

  • 前提として、不眠は抑うつを引き起こす
  • 前提として、抑うつは「死にたい気持ち」を引き起こす
  • ゾルピデムは、不眠を改善する
  • 不眠の改善は、抑うつを改善する
  • 抑うつの改善は、「死にたい気持ち」を改善する

……という、間接的な効果によるものだと考えられます。

この「死にたい気持ち」の改善は、不眠症が深刻な人ほど、より良い効果をもたらしました。

「死にたい気持ち」があれば、まず眠るよう考える

この結果は、すべての「死にたい気持ち」に睡眠薬が効く……ということを意味しません。しかし冒頭で述べたように、不眠と抑うつ、「死にたい気持ち」には非常に深い関係があります。どうしても気分が優れない人は、眠りの問題をまず解決するために、睡眠薬をもらうことを検討する……というのも、一つの方法かもしれません。

引用

McCall V. M., et al. (2019). Reducing Suicidal Ideation Through Insomnia Treatment (REST-IT): A Randomized Clinical Trial.  Am J Psychiatry.