一般的な抗うつ剤は、うつではなく不安に効いている
うつ病の薬は、実際には落ち込みを「治す」のではなく、安心感を与えて治りやすい状態にもっていってくれているのかもしれません。
うつ病の薬(抗うつ剤)は本来、うつ病の診断が下った上で、慎重に使う強い薬として考えられてきました。しかし最近の抗うつ剤は、実はもっと広く「不安」の状態にこそ効いているので、処方の仕方を変えても良いかもしれない……という、メンタルヘルスの現場に直接関わる研究結果が登場しました。
SSRIは、本来「うつ症状を減らす」薬と考えられていた
メンタルヘルスの改善に対して、今一番多く処方されているのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ剤です。これは脳内でセロトニンが捨てられるのを防ぎ、結果的にセロトニンの濃度を上げてうつや不安を緩和する……という作用の薬です。
しかし、抗「うつ」剤として投与されていながら、一般に処方されているSSRIの1つ「セルトラリン」は、抗「不安」剤として効いているかもしれない、という研究結果が、医学系の権威"The Lancet Psychiatry"に掲載されました。
”抗うつ剤”セルトラリンは安心させる薬だった
これは製薬業界から資金提供を受けていない(=結果が中立的な)史上最大のプラセボ対照試験(人の勘違いが極めて入りにくい、薬の効果を確かめるための実験)で、ヨーロッパの国立衛生研究所(NIHR)の資金提供により行われました。
研究者は、様々な程度のうつ症状をもつ653人の英国人に対しする、それまで行われた研究より遥かに広いサンプルの調査を行いました。すると、セルトラリンは6週間以内には抑うつ症状を改善したとはいえず、12週間経ってようやく、抑うつ症状を改善するかもしれないという弱い傾向がみられました。
しかし、それでもなお、セルトラリンを飲んだ人は、プラセボの薬を飲んだ人と比べて約2倍「気分が良くなった」と報告しました。これは、薬の効果の試験としては十分大きな効果と言えます。つまり、直接うつ症状を改善しなくとも(もともとの目的に合った効果がなくとも)、なんらかの不安を取り除くことはできていることが示されました。
多少ずれた効果が出ても、有用な薬ならば使われるべきである
うつ病の人の大多数は、不安症状も報告します。また、抗うつ剤は実際には、全般性不安障害という不安症状への薬としても使われています。うつと不安は、言葉がよく似ているだけでなく、病気としての特徴も非常によく似通っています。
もともとうつ病の薬は厳密な診断に基づいて処方されていたのですが、近年は非常に幅広く適応されています。「これでいいのか?」と思われていたところに、この研究はむしろ「もっと使うべきだ」という効果が出たため、うつ病治療に対して更に効果的な方法が開発されていくかもしれません。
引用
Gemma Lewis et al. (2019). The clinical effectiveness of sertraline in primary care and the role of depression severity and duration (PANDA): a pragmatic, double-blind, placebo-controlled randomised trial. Lancet Psychiatry.