電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

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幸福感が強い人は、脳が揺らがない──主観的幸福と安静時脳活動の関係

幸せとは何でしょう。人によってそれぞれ定義はあるでしょうが、世界中の大多数の人々は、「自分が幸福だと思えること」は人生の重要なトピックだとみなしているでしょう。これを脳科学では主観的幸福度と呼びます。

メンタルヘルスの文脈でも、例えばうつ病において下がってしまった幸福度が、どうしたら上がるだろうか? という観点は非常に重要なものです。

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最近の研究で、特定の脳部位のゆらぎが小さいほど、その人は自分が幸福だと思っている……という関係が見いだされました。

 

幸福感は、国際的にも人生の重要テーマ

心理学において、感情や感覚・メンタルを言葉にするのは非常に重要な試みです。今回の研究では実験の前に、幸福感についての心理学的な経緯が説明されています。

国際調査において、世界中の大多数の人は「幸福」がいちばん重要なテーマだとされています。この重要な幸福感が、心の中や脳の中でどう表現されているのか? を研究するために、心理学では主観的幸福尺度と呼ばれる評価項目が開発されました。

主観的幸福尺度では、短期的な嬉しいイベントとはまた別の、「幸福かどうか」を測るためのたくみな質問項目が使われます。また、主観的幸福尺度の点数の高さ(幸福かどうか)は、脳信号のゆらぎの強さと関係していることが、fMRIによる脳科学研究で明らかになっていました。

幸福感が強い人は、脳のゆらぎを起こす部位の活動が低かった

今回の研究は、具体的に脳のどの部位の活動が主観的幸福感と関係しているのかを調べた点が新しいところです。著者らは51名の脳活動データを使い、主観的幸福感(主観的幸福尺度の得点の高さ)と、脳活動との関係を調べました。

すると、主観的幸福感が高いほど、右楔前部という脳部位(図の黄色い部分)の活動が低い、という相関関係が見いだされました。楔前部の活動は、脳のゆらぎを引き起こすことが知られており、楔前部の活動が低い=脳のゆらぎが小さい、と解釈することが可能です(図はSato et al., 2019)。

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研究者はさらに、感情を司るとされる扁桃体(図のAmy)という脳部位の活動と、楔前部(図のPrec)の活動との関係を調べました(図はSato et al., 2019)。両者の機能的なつながりを確認したところ、右扁桃体と、右楔前部の機能的なつながりが強いほど、主観的幸福感が高いという相関関係が確認されました。機能的なつながりが強いということから、「感情の処理が効率的であるほど、幸福感が高い」という解釈がありえる、と著者らは結論づけています。

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科学的に裏打ちされた「幸福増加プログラム」は作れるのか?

今回観察された楔前部の活動は、瞑想によって低下することが知られていた。したがって著者らは、「科学的に裏付けのある、”幸福感増加プログラム”を作れるかもしれない」とコメントしています。

ただし、今回の研究も(多くの研究と同じように)幸福感と脳活動の相関関係を示した段階に過ぎず、因果関係を示しきれたわけではありません。夢のある、意義深い研究であることに疑問の余地はありませんが、安直な応用の可能性には常に注意が必要です。

引用

Sato W et al. (2019). Resting-state neural activity and connectivity associated with subjective happiness. Scientific Reports.