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双極性障害患者の家族は脳が大きい?:脳容積と遺伝リスクの関係

精神疾患脳科学は密接な関係にあります。というのも精神疾患メンタルヘルス)が一定以上脳の疾患である以上、患者の病態と患者の脳とを比較する作業は、非常に重要だからです。

しかし今回は、患者本人の研究ではありません。双極性障害統合失調症の人の、家族の脳についての驚くべき調査を紹介します。

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双極性障害統合失調症には、遺伝するリスクと環境のリスクがある

精神疾患の一部は、遺伝する疾患リスクと、遺伝しない(環境に基づく)疾患リスクと療法があることがわかっています。つまり、病気のなりやすさは一部遺伝し、それに対しリスキーな環境が関わって疾患にかかるということです。このように、こころの要因と環境の要因を分ける素因ストレスモデルについては、過去記事で紹介しました。

 

julife.hateblo.jp

 

双極性障害統合失調症も、遺伝するリスク要因・環境要因の療法があるとされています。今回紹介するSonja MC de Zwarteらの研究では、この2つの疾患と、脳の構造との関係を調べました。

双極性障害の家族は脳が大きく、統合失調症の家族は脳が小さい

疾患リスクと比較される生体の指標として、頭蓋内容積があります。これは、脳の体積と、脳の周りを循環する体液の体積とを合計したものです。

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Sonjaたちはこの頭蓋内容積を、「双極性障害統合失調症の一親等の血縁者」「2つの病気の患者が血縁者にいない者」で比較して、これらの病気に遺伝の要素はどれだけ含まれているか? を調べました。すると、

ことがわかりました。

少々ややこしいですが、これらと遺伝リスクの関係を説明します。

患者と一親等の血縁者とは、遺伝子の50%を共有しています。つまり双極性障害の患者とその血縁者は、遺伝リスクを5割共有しているわけです。今回の研究では、

  • Aさんは双極性障害である
  • Aさんと遺伝子を半分共有しているBさんは、双極性障害ではないが、他の人と比べて頭蓋内容積が大きい

という関係がわかりました。ここから、AさんとBさんで共有されている遺伝子が

  • (他の遺伝子と組合わさらなければ)頭蓋内容積を大きくする
  • (他の遺伝子と組み合わされば)双極性障害を引き起こす

のではないか……と考えることができます。この仮説から、双極性障害のリスクと頭蓋内容積の大きさが関係しているかもしれない、と考えたのが、今回の研究です。

なお、頭蓋内容積の大きさは、初期の脳発達のマーカーと考えられています。これらの発見は、2つの病気の遺伝要因が、脳容積の発達に関連していることを示唆していると、著者らは主張しています。

なお、環境要因については明確なパターンが見つけられませんでした。

たくさんのデータから、病気の早期発見につながる研究が生まれる

脳容積が大きい/小さいということは、人格上・機能上なにか不都合があることを意味しません。しかし、これら発達の特徴が病気に関わっていることがわかれば、病気の早期発見や治療・介入につながるため、非常に重要な研究といえます。

こうした比較は、ENIGMAコンソーシアムにより、6000を超える脳画像データセットを用いて行われました。遺伝子検査をはじめとして、こうした研究から病気のリスクと脳の発達の関係が、更に明らかになることが望まれます。

引用

Neuroscience news: "Relatives of patients with schizophrenia or bipolar disorder have distinct brain abnormalities"

The Association Between Familial Risk and Brain Abnormalities Is Disease Specific: An ENIGMA-Relatives Study of Schizophrenia and Bipolar Disorder. Sonja M.C. de Zwarte et al., Biological Psychiatry., 2019.