電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

脳科学やメンタルヘルスの最前線を、研究者・当事者目線からお伝え。生きづらさを解消するためのプロダクトの紹介も。

双極性障害とADHDの似ているところ・違うところ

双極性障害ADHDは、「衝動的に動いてしまう」という非常によく似た症状があります。悩みを抱えた患者さん本人や、熟練した医師でさえも、この2つを見極めるのは難しいときがあります。

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今回はメンタルヘルスの視点から、双極性障害ADHDのよく似た点、違う点を解説いたします。なお、病気の診断はメンタルヘルスの専門家と患者さん同士で、時間をかけて行うものです。本稿がその営みの助けになればと思います。

 

双極性障害ADHDは似た点も多いが、治療法が異なるため区別が重要

メンタルヘルスの大原則として、「診断は、治療方法の区別のために行う」というものがあります。極端に言えば治れば良いのですが、治し方が違うことがわかっている病気同士は、きちんと区別することが重要です。

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この点、双極性障害ADHDは難しく、「見た目によく似ていて、治療方法が全く違う」という病気になります。したがって今なお、これらの病気の判別方法についての研究が盛んに行われています。

双極性障害ADHDのよく似た点

衝動性

どちらの病気でも、衝動的に動いてしまったり、物事を必要以上に衝動的に決定してしまったりするという衝動性の高さが報告されます。双極性障害の人は異常なほどの自信やポジティブさに由来し、ADHDの人はどちらかというと「止められない」という間隔に由来している点が、よく似た中でも異なっています。

過活動

双極性障害の人は、エネルギーに満ち溢れて、何にでも手を出せてしまう時期(躁病エピソード)があります。ADHD双極性障害の人ほど波がないですが、なんとなく焦ってしまったり、他の人の活動に割り込んでしまったりすることがあります。どちらも「過活動」という、よく似た症状として認識されています。

双極性障害ADHDの異なる点

双極性障害によくみられる特徴

抑うつエピソード

双極性障害の人は、エネルギーに溢れる「(軽)躁病エピソード」のほかに、エネルギーがなくなってしまう「抑うつエピソード」 を経験します。これは、気分が落ち込んだり意欲がなくなるという精神症状のほか、不眠や食欲減退などの身体症状としてもあらわれます。ほかにも、以下のような症状が、日常生活に支障をきたすレベルで出ることがあります。

  • 気分の低下
  • 普段楽しんでいるものが楽しめない
  • 疲労しやすい
  • 寝過ぎや不眠などの睡眠の問題
  • 過食や食欲減退などの睡眠の問題
  • 物事を覚えにくくなる

※ただし、ADHDの人が抑うつ状態にならない、ということではありません。

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ADHDによくみられる特徴

多動性

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人では、いわば抑制がきかなくなってしまったかのような、そわそわとした多動性の症状がよくみられます。具体的には、

  • 話し出すと極端にたくさん話す
  • 落ち着いているときにも、歩きまわったり体を動かしている
  • 静かに休んだり座ったりし続けられない 
  • 常にエネルギーをもてあましている

といった症状が代表的です。

不注意(注意欠陥)

ADHDのもう一つの柱が、不注意症状です。これは持て余しているエネルギーを、一つのところに注ぎきれないというような症状として現れます。具体的には、

  • 定期的に気が散ってしまう
  • 目の前の課題に集中できない
  • すぐ空想にふけってしまう
  • タスクの優先順位付けができない
  • マルチタスクが極端に苦手である
  • 重要な予定や日常的な活動を、忘れてしまう

といったものです。

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これは単に疲れているときの不注意と違い、常に日常生活に支障をきたしているレベルで生じます。後半のタスク処理に関しては、近年のデバイスの発達でカバーできますが、前半は業務に支障をきたすことがまだまだ多いのが現状です。

※タスク処理を補う技術に関する記事はまた別途記載予定

双極性障害ADHDは併発率も高く、長時間かけて付き合う疾患

上述のように、双極性障害ADHDはよく似た症状、切り分けきれない症状が多数あります。研究によると、ADHDの人は双極性障害の併発率が高く、23.3%の人は両方の疾患を持っているといわれています(Karaahmet E. et al., 2013)。

メンタルヘルスの領域は残念ながら、いまだこれらの疾患を「完治」させることはできません。しかし症状を上記のようにきちんと分解することで、薬で抑える部分、ツールで補う部分などを切り分けることは可能です。メンタルヘルスの専門家と患者さんとの連携によって、少しでも暮らしづらい状況を作るのが、現在一番の対処法となっています。

当ブログでも、専門的な部分、日常的に生きづらさを補える部分の両面から、様々な情報を紹介していく予定です。これが少しでも当事者の助けになれば幸いです。

 

引用

Bipolar or ADHD: How to tell them apart

Karaahmet E. et al. (2013). The comorbidity of adult attention-deficit/hyperactivity disorder in bipolar disorder patients. Compr. Psychiatry.