電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

脳科学やメンタルヘルスの最前線を、研究者・当事者目線からお伝え。生きづらさを解消するためのプロダクトの紹介も。

寝ている間に記憶が定着する仕組み:脳と海馬の間を情報が行き来する

寝ないとものが覚えられない、という仕組みは以前の記事で紹介しました。

しかし実際に寝ている間、脳は何をしているのか? 今回は、より具体的な脳科学の知見を紹介いたします。

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睡眠科学は脳の科学

脳科学に期待される大きな役割の一つに、睡眠に関するものがあります。以前の記事で取り扱ったように、眠っている間の「オフライン学習」など、眠りを良くするとどんな良いことがあるのか……を、脳の状態変化から調べる試みが、よく行われています。

以前の記事で扱った以外に、睡眠中にだけ起きる様々な変化が調べられています。例えば、

  • 睡眠中は、起床中と逆の脳活動が起きて、記憶を増強する
  • 睡眠〜覚醒の間に変化する脳内物質が、閃きに関わっている可能性がある
  • 睡眠中は脳が縮み、老廃物が洗浄される

……など、単に「眠り」といっても、記憶・創造性・健康と様々に関わっています。

 

julife.hateblo.jp

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今回は、以前の記事の続きとして、脳が物を覚えるメカニズムを紹介します。

 

睡眠中は、起きているときと情報が逆回しになる

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起きているとき・寝ているときの脳活動を比較するとき、3つの登場人物を考えるとうまくいきます。

  • 大脳:情報を振り分けたり処理したりする、脳で一番複雑な機能を持つ部位
  • 海馬:おもに記憶を蓄積すると考えられている、脳の深い部位
  • 感覚器:世界の情報を脳に運ぶ部位。目や耳、舌など。 

このうち、感覚器は寝ているときは(ほとんど)閉じられているので、主に大脳と海馬の関係が変わるわけです。

例えば、目から入ってきた情報を例に考えましょう。起きているときは、目から入ってきた情報は大脳で処理され、覚えた情報が海馬に蓄積されていきます。この情報の流れは、アセチルコリンという神経伝達物質が担っていると考えられています。

Hasselmoたちは1999年に、寝ているときにはこの流れがどうなっているのかを調べました。寝ているときは、覚えるための情報が外から入ってきません。そのため別のことをしているのではないか……ということです。

実際に調べてみたところ、なんと寝ている最中には、起きているときとは逆に、海馬から大脳へアセチルコリンが流れ、情報が逆の方向へ送られていたことがわかりました。これは以前の記事で紹介した、記憶のリハーサルのようなことが睡眠中に起きているということです。

 

まとめ:深い睡眠が(改めて)記憶に重要

脳は、何度も起きた情報ほどよく覚えていられる、という性質があります。そのため、睡眠中の繰り返す情報の流れが、記憶に対して非常に重要な役割を果たしているのではないかと考えられています。

なお、この反復練習のような情報の流れは、深い睡眠でしか起きないこともわかっています。更に最近の研究では、単に記憶を繰り返すだけでなく、記憶をより効率的に覚えるために、脳神経が組み替えられているということも示されています(Landmann, et al., 2014)。しっかり記憶を定着させるために深い睡眠がなぜ必要か、その答えの一つが、これらの研究が示しているといえます。

引用

Hasselmo, M. E. (1999). Neuromodulation: acetylcholine and memory consolidation. Trends in Cognitive Sciences.

Landmann, N., et. al. (2014). The reorganisation of memory during sleep. Sleep Medicine Reviews.