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Facebook、神経活動由来の信号でコンピュータ操作を行う「CTRL Labs」を買収

Facebookは9月23日、CTRL Labsを買収したと発表しました。

CTRL Labsは、神経活動に基づいてコンピュータ操作を行う技術を開発する、ニューヨークのベンチャー企業です。着想としては、Neuralink社の技術にも近いものが感じられますが、CTRL Labsの技術は電極を使わない、非侵襲とよばれるものです。

julife.hateblo.jp

Facebookは2017年からブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の開発を進めており、VR/AR技術に加え、BCI技術にも繋がるCTRL-Labsの技術を活用するものと思われます。

今回は、このCTRL-Labsの技術について紹介いたします。

 

手首につけるだけで手の動きを模倣する"CTRL-kit"

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https://www.ctrl-labs.com/ctrl-kit/

CTRL-Labsの技術は、脳活動に由来する、手指の運動意図を読み取る点に特徴があります。おおざっぱにいうと、リストバンドをつけてさえいれば、念じるだけでコンピュータを動かせるようにするという技術です。

Facebookは9月17日にもARメガネを開発中と報道されたばかりで、XR技術により没入するためのプラットフォーム構築の一環として、リストバンドによる(=コントローラー不要の)操作技術を買収したものと考えられます。つまり、手ぶらでゴーグルをかけるだけで、コンピュータを動かす未来を実現しにかかっていると思われます。

手首に送られた運動信号をデコードする非侵襲技術

CTRL-Labsの開発したCTRL-kitでは、脳→末梢神経と送られた信号を機械学習で分類し、例えば「マウスを動かす」「クリックする」といった運動意図を、実際のコンピュータ操作信号に変換することができます。これは神経活動のデコードと呼ばれる技術で、非侵襲のブレイン・コンピュータ・インターフェースなどでも活用される技術です。

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https://www.youtube.com/watch?v=D8pB8sNBGlE

画像は、実際に指を動かしていなくても(右手を左手で抑えていても)、右手に信号が送られてさえいれば、指の動きがコンピュータ上でデコードされている様子です。ここまで指先をデコードすることができれば、あとは特定の指の動きに「クリック」「カーソル移動」あるいは単に「ボタン操作」などを割り振ってやれば、”念じるだけで”コンピュータ操作が可能になるといえます。

脳活動でも、神経活動でもない信号。だが、着実な未来の技術

ただ誤解されがちなのが、これは脳活動をそのまま操作に使っているわけではない、ということです。Scientific Americanが報じているように、リストバンドが検出しているのは筋肉の電位変化であって、脳→末梢神経(脳神経以外の、手足などの)→筋肉、と変換された信号を拾っているわけです。

しかしながら、逆算していけば脳活動に由来することは確かです。CTRL-Labsは、リストバンドに「拾われやすい信号」を会得するのには多少なりとも訓練が必要としていますが、それさえできれば、キーボード操作よりも遥かに優れたコンピュータ操作技術を実現できる、としています。

手ぶらでのコンピュータ操作はSFの世界で一番目立ち、そしていまだ実現に遠かった技術です。XRと組み合わせて、いよいよ電脳世界へダイブできる日が近づいているのかもしれません。