電脳の中の脳──脳科学・メンタルヘルスの最新研究やデバイス

脳科学やメンタルヘルスの最前線を、研究者・当事者目線からお伝え。生きづらさを解消するためのプロダクトの紹介も。

IoTは「生きづらい」脳の補完となる:忘れ物防止タグ

数年前から、IoTデバイスをよく使っています。

その先駆けとなったのが、財布の紛失。一回、二回なら普通にあることですが、1ヶ月で立て続けに忘れ、落とし、無くし続けたときに「これは、努力ではなんとかならないのではないか」と思ったものです。

 

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僕のあの財布、どうしたんでしょうね?

突然ですが、リーフは数種の神経疾患・発達障害の当事者です。

今回の話題に一番深く関わる特性は、ADHD(注意欠陥性・多動性障害)スペクトラムでしょう。

この非定型発達、いわゆる「発達障害」は、最近では主に脳の特性から生じる症状であることがわかっています。

つまるところ特性である以上、付き合っていくしかない。ではどうすれば社会で生きやすくなるか? 自分だけでなんとかならないなら、自分に欲しい機能を代替してくれる何かはないのか?

この課題感と、巷のIoTブームがうまく噛み合った結果、家中IoTで埋め尽くすガジェットオタクが爆誕したのでした。

 

さて、IoTのテーマ記事では、こうした課題感の人に対し、少しでも先駆者として助けになればと思います。

(半分以上は趣味ですけどね!)

 

 

忘れ物防止タグは注意力を代行してくれる

さて冒頭の財布忘れですが、普通に考えると「もっと気をつけなよ」で話は済みます。いわゆる注意力散漫になっていなければ、財布が月に3回も変わったりしなくて済むはずです。

そしてそれこそが今回の本題。

「気をつける」機能がどうしてもONにできない、あるいはランダムにON/OFFされてしまう、そんな症状がADHDスペクトラムには存在します。
リーフのそれはそれほど重い症状ではないですが、実際に「気をつける」ことが全くできないような、生きづらい人々も存在します。

「誰かが代わりに気をつけてくれたらいいのに」、という需要に対する一つの答えが「忘れ物タグ」であるというのが、今回の紹介記事です。

「忘れ物タグ」とは、

  • Blootoothで端末と接続し、接続が切れた(≒タグの置き忘れ)のを検知して知らせてくれる
  • タグ同士でも通信が可能で、タグを持つ人がいるほど検知の精度が上がる

といった特色を持つ、小さなIoTデバイスのことです。

電池入れ替え可能・音を鳴らせるタグ「TrackR」

まずリーフの使用しているタグ「TrackR」から。細かな紹介記事はすでにたくさんあるので、使用感をお話します。

端的に言うと‥‥電池交換が可能(CR2016)で優秀なデザイン。しかし肝心のアラートに癖がある!

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ボタン電池の交換が可能な、金属質のデザイン

基本的にどの忘れ物タグも「Blootoothで端末と接続しておいて、接続が切れたら通知する」という手法をとっています。そのため、例えばTrackRをつけた鍵がスマホから離れるとスマホに通知が来る‥‥という感じですね。

しかしこの通知、ポップアップはとても良いのですが、必ず鳴る通知音が爆音なのです。

 

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同時に複数デバイスをチェックできるのはとても良い

アプリから音量を調整することはできない(音のなる時間を調整したり、音自体を変えることはできる)ので、イヤホンをしていると急に爆音通知が。心臓に悪い‥。また音自体を変えることはできると書きましたが、無音をアラートにしたとしても「一瞬端末の設定が最大音量になる」ので、音楽を聞いていると爆音に耳をやられるのは変わらず。

聴覚過敏がある身としては、結局通知を切ってしまうしかない‥‥というところが残念でした。なくしたと自覚したあとに追跡することはできるので、それが役に立ったことは少なからずあり、その点はいいデバイスと思います。

ちなみに爆音の利点が一つだけあって、タグ自体が爆音を鳴らしてくれるので、アプリやスマートスピーカーからタグの場所をかんたんに見つけられる、という利点があります。TrackRアプリは、Alexaからデフォルトで「iPhoneを探して」という指示を出せるのも利点といえます。

 

日本発・駅での検知も可能な「MAMORIO

続いて日本発のデバイスMAMORIO」。開発の方々はSNSでの宣伝・交流に非常に力を入れているので、耳にしたことがある方もいるかもしれません。

まず、リーフはこちらのデバイスをまだ購入していません。前評判や、TrackRの不満点を解消できるか? という視点での紹介になります。

 

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MAMORIOタグを買ってなくてもスマホ追跡が可能

忘れ物をするタイミングは、主に

  • 自宅から出るとき
  • 電車や駅など、荷物を置くタイミング
  • 飲食店など、荷物を出すタイミング

の3つ。このうち、特に2つ目に対して解決策を持っているのがMAMORIOの利点といえます。

MAMORIOは、「MAMORIO Spot」と題する拠点を、各電車沿線の駅にもっています。これはMAMORIO同士がすれ違った時同様、「MAMORIOが駅とすれ違った時(=忘れ物として届けられた時)」にも、持ち主にアラートを鳴らしてくれるというものです。

従来のタグだと、タグの持ち主が運良く忘れ物とすれ違わないと細い位置が不明でした。これが、忘れ物事務所など「どこに届いたか」明確になるのが、MAMORIOを使用する大きな利点ですね。

MAMORIOは現在も開発が続いており、拠点もどんどん増えていきそうだというのもプラスです。

強いて欠点をあげるなら、

  • ミニマルデザインなので音を鳴らしたりできない
  • 同様に、電池の交換もできない

あたりでしょうか。

しかし音はともかく、電池交換に関しては、

  • そもそも電池は1年程度持つ
  • 電池切れの商品を送ることで新品を半額購入できる「OTAKIAGE」サービスの存在

といった特色によって、ほぼ問題ないように思えます。

参考までに、TrackRの電池はせいぜい2ヶ月程度しか保ちません。つまり1年のランニングコストボタン電池6つ分≒1200円程度。一方MAMORIOのOTAKIAGEを使うと、定価2678 / 2 = 1339円。大差ないというか、タグ自体の減価償却を考えるとMAMORIOの方がお得かもしれません(そのように値段設定を調整しているような感じがします)。

リーフもこれから買うとしたら、どんどん機能が洗練されていくMAMORIもにするかな、と考えていますね。

 

最近日本への進出が噂される「Tile Mate」

ビックカメラなどで販売されている「Tile Mate」も、電池交換ができるタイプの忘れ物タグです。 

こちらは機能的にMAMORIOに押され気味なのですが、最近動きがありました。

7月には商品価格を4割引きの1980円まで下げたほか、米国のみだったサブスクリプションサービスを日本向けにも展開するとの報道がありました。

忘れ物タグの比較は、タグ単体の機能というよりは、タグに付随するサービスで勝負することになるようです。

 

Appleからもタグが登場? 通称"B389"

上記の流れを受けてか、Appleの開発データにも落とし物タグのようなデータが存在することがわかっています。

Appleのエコシステムに組み込まれたタグがあるとすると、非常に強力な検索機能をもつと想像できます(今でさえ、"iPhoneを探す"はかなり強力なセキュリティと探知機能をもっています)。

個人的には、そもそも検知したいのは多くがApple製品なこともあり、ぜひAppleにも頑張ってほしいところですね。

 

バイスは脳機能の苦手部分を拡張できる

途中から製品の紹介のようになりましたが、脳神経科学ブログとしては、このメッセージを最後に残したいと思います。

人によって脳の得意・不得意は様々ですし、したがって生活において、困りごとが何に対し、どの程度起きるかも人それぞれです。特に「発達障害」といった明確に生活へ支障をきたす特徴を持つ人々にとっては、こうしたデバイスの発達の恩恵を受けやすいといえます。

バイス市場の発展を通し、またリーフ自身の活用例を通して、そうした「生きづらさからの脱却」が少しでも進めば良いと思います。